収録日:2025/10/7
2025年10月1日に創業したSherpa Partners株式会社(以下、シェルパパートナーズ)。同社は、企業向けの採用支援や個人向けのキャリア支援を行う人材コンサルティングを生業としている。
シェルパパートナーズ創業者の坂本 宙彌(さかもとひろや)は、2013年に早稲田大学政治経済学部を卒業後、12年の間、人材業界で研鑽を積んできた。人材派遣の営業から始まり、転職エージェント、採用プラットフォームの事業開発、外資メーカーのRPOプログラムマネージャー。これらの多角的な経験こそが、坂本の強みだ。
そんな坂本が、「世の中の『不』や『非』を無くす」との想いを胸に、起業に踏み切った。坂本 宙彌とは何者か。起業のきっかけは。どのような会社を創るのか。坂本の中学・高校の同期である、ライターの畑野が取材した。
ライタープロフィール:畑野 壮太(はたの そうた)
2013年早稲田大学文学部卒業後、出版社・IT企業への勤務を経て、2018年に独立。Webメディア、雑誌などに寄稿多数。シェルパパートナーズ創業者・坂本とは、早稲田中学・高校の同期。
人材業界に入るまでの紆余曲折
高校1年生のとき、坂本はあるドキュメンタリー番組と出会った。NHKの「映像の世紀」である。世界史の授業中に教師が流したこの番組は、坂本という人間に大きな影響を残した。
「それまで勉強への興味はあまり湧いていなかった。でもこのドキュメンタリーを見て、自分にはない視野を持つ人が山ほどいることに気づいた。世界の広さを知った」
画面に映し出される多様な人生、思想、歴史。それらを見ることで、坂本は「豊かになる感覚」を覚えたという。彼が多様な人と、その集合体である企業に寄り添う仕事を手がけるようになった原点である。
大学に入ると、坂本はボルネオでのボランティア活動に参加した。非営利団体のマネジメントを手掛けたが、これは想像以上に難しいものだった。
「非営利だから、やる気がなくなるとメンバーは頑張ってくれない。ボランティアのメンバーは、皆それぞれ、やりたいことがありすぎるような人たちだった。組織としてやるべきことと、メンバーのやりたいことのバランスをとるのが大変だった」
一人ひとりの想いを大事にしながら、組織としてのミッションも果たす。彼は、組織作りの面白さと難しさを学んだ。
勉学の面では、ゼミでの経験が、坂本の人生観を形作った。毎週1冊の本を読み、2000字のレポートを書き、討論する。それが4年間続いた。
「ゼミでは、ただの知識ではなく、生き方の指針を授かった。たくさんの本を読み、考察を深めるなかで、生きるからには他者のためにならないといけないと思えた。あそこでの経験があったからこそ、思い込みをしない、新しいやり方があるんじゃないかという思考を常に持てるようになった」
ゼミの方針は厳しく、苦労して書いたレポートの質が悪いからと、目の前でそれを破られることもあったという。そんな苦しい経験も、いまの彼にとってはいい思い出のようだ。
転機は、2011年3月11日。東日本大震災の発生だった。坂本は1年間休学して、被災地でのボランティア活動に参加。そこで自分の無力さを痛感した。
「力がないと人を救えないと思った。金銭、権力、ネットワーク、専門性。当時の自分には全てが足りなかった。理想だけでは何も変えられない。駒として動くことはできても、根本から何かを変えるには、力が必要だと感じた」
挫折をした坂本は、「若干鬱」にもなったという。その期間は、就職活動にも身が入らなかった。しかしそこで彼は決意する。次にこんなことが起きたときに、自分がリーダーとなって解決する側に回ろう。そのためにもまずは力をつける。心を決めた彼は、就職活動を再開した。
だが、坂本の就職活動は順調なものではなかった。どの業界に行こうか迷いがあったのだ。当初は、新聞記者になろうとしていたという。そんな彼を人材業界へと仕向けたのは、多くの友人が彼に向けた言葉だった。
「坂本は、人の話を聞くのが上手い」
坂本の23年来の友人である筆者もそうに思うし、実際、坂本は人の相談に乗るのが好きだった。自分が迷いの最中にありながらも、友人の就職活動の相談に乗ることも少なくなかった。人のキャリアに寄り添うことが好きなんだ。天啓を得た彼は、ファーストキャリアとして、人材派遣会社の営業担当を選んだ。
人材業界に入った坂本は、複数回の転職を重ね、転職エージェント、採用プラットフォームの事業開発、外資メーカーのRPOプログラムマネージャーを経験した。これらの職種を渡り歩くなかで「人材業界の仕事ならなんでもできる」という自信を身につける一方、ある違和感が芽生えていた。
「いまの人材業界には“人間らしさ”がない」
業界全体が効率化や自動化に傾倒するあまり、大切なものを失いつつあるのではないか。その問題意識は、経験を積むほどに大きくなっていった。
「スカウトはラブレター」──坂本が描く理想の採用
AIが急速に発展したいま、人材業界でもそれが広く活用されている。採用業務が機械化・効率化されているのだ。しかしその流れが加速しすぎるあまり、自動化されるべきでないものにまで機械の手が及んでいると、坂本は考えている。
「採用の効率化、それ自体は悪いことではない。でも、本来は人がやるべきことまで自動化されている。なんでもかんでもAIに任せればいいというものではない」
坂本が特に問題視しているのは、スカウトメールの自動生成・送付だ。企業が求職者に送るスカウトは、その人への強い関心と期待を伝えるものだ。にもかかわらず、生成AIでそれを大量に作成し、送信しているケースが多い。
「スカウトは、企業から求職者に送るラブレターで、恋愛の告白のようなもの。それをAIに書かせるのは本質的におかしいと思う。採用プロセスから、人の想いや情熱を切り離してはいけない」
人の想いや情熱の軽視は、企業側だけでなく、求職者側にも課題がある。自分のキャリアという極めて大事なものを、エージェントに丸投げしてしまう人が少なくないのだ。またエージェント側も、それでよしとしてしまう傾向にある。
「エージェントのなかには、業界に大して詳しくないのに、とにかく20社応募させて2社通せばいい、という思考の人もいる。企業側のスカウトも、求職者からの応募も、大量マッチングのような、質より量のシステムになってしまっている」
坂本の考えは明確だ。企業には、良質な社員を増やせる採用を。個人には、キャリアを切り開く武器を。相手を思いやった、“熱い”採用活動をする企業を増やしたい。自分のキャリアを自ら切り開ける人を増やしたい。それがシェルパパートナーズの目指すところだ。だから同社は、企業向けの採用支援と個人向けのキャリア支援を両輪にした事業を展開している。
「究極の目標は、お客さんにシェルパパートナーズから卒業してもらうこと。自分がいなくても採用業界が回る、それが理想です。企業が自分たちの力で良い採用ができるようになる、求職者が自分の力で望むキャリアを築けるようになる。そんな世の中をつくるための支援をしたい」
この想いを固めた坂本は、「いましかない」と、起業に踏み切った。彼を勇気づけたのは、彼が尊敬する経営者・DeNAの南場 智子氏の言葉だ。
「南場さんの『起業はしたくてしたくてたまらなくなったときにすればいい』という言葉が後押しになった。これまで人材業界で経験を積んできて『いまの自分ならこの業界の問題を解決できる』という自信もあったし、36歳という年齢を考えたとき、いましかないと思った」
また坂本は、経営者になりたいという夢を幼少期から持っていた。シェルパパートナーズの創業は、それを実現することでもある。
「小学生の頃から、いつか起業したいという想いがあった。これは、デザイン会社を経営していた祖父からの影響が大きい。彼は60歳になるまで鬼のように働いて、引退後は悠々自適に旅行に繰り出す日々を送っていた。そんな祖父のような人生に、昔から憧れていた」
坂本の想いと夢が結実したシェルパパートナーズ。彼によると、同社は2025年10月1日の旗揚げから「順調な滑り出しができている」とのこと。草創期ではあるが、すでに10名の業務委託メンバーを抱え、組織としての仕事にも乗り出している。
強みは採用の全て──シェルパパートナーズで働くということ
シェルパパートナーズの強みは何か。坂本はこう答える。
「採用は派手なものではない。当たり前の積み重ねだと思っている。その当たり前を愚直に、ああでもないこうでもないと繰り返して、機動力を持って短いPDCAを回し、網羅的に実行できる。それがシェルパパートナーズの強みです」
その強みを支えているのが、坂本自身の圧倒的な経験の幅と深さだ。人材派遣の営業からキャリアをスタートし、転職エージェント、採用プラットフォームの事業開発、外資メーカーのRPOプログラムマネージャーと、人材業界のあらゆる立場を担ってきた。
「採用には上流、中流、下流がある。上流は採用戦略、中流は求職者探し、スカウトやヘッドハンティング、下流は面接や選考などのオペレーション。僕はこの全てを経験している。エージェントを5、6年、採用代行を大手からスタートアップまで2、3年、事業会社での人事経験もあるし、採用システムの開発企業にいたこともある。これらを全部わかる人というのは、業界全体でもかなり稀有だと思う」
だからこそ、対応できるものの広さと深さが両立している。企業の立場、エージェントの立場、求職者の立場。それぞれの痛みも喜びも理解しているからこそ、多面的な提案ができるのだ。ただし、坂本が大切にしているのは、経験やロジックだけではない。
「会社の方針として、ロジカルモンスターにはなりたくないというのがある。データは大事だが、思いや感情も、企業と求職者の双方にとって必要なもの。採用という仕事の本質は、企業と求職者の物語の行間を読むこと、ロジックとアートのバランスだと考えている。それを汲み取れる人を入れて、育てていきたい。これらは教えられることでもあるので、共に働く仲間には、自分の経験をどんどん伝えていくつもりだ」
シェルパパートナーズで働くメリットは、人材業界の業務の本質を、あらゆる側面から学べることだ。上流から下流まで、戦略からオペレーションまで、実務を通じて習得できる。坂本自身は「教えるのは上手い自信がある」語っており、未経験者でも素質のある人であれば、積極的に採用していきたいという。
「採用の仕事において、できるできないを左右するのは、経験よりも素質だと思っている。逆にいえば、学歴も性別も関係なく、下剋上できる世界だ。本気でいろいろなことに向き合ってきた人ならできる仕事。自分の生き方とか、他者の悩みに敏感で、苦しんできた人ほど素質はある」
さらに坂本は、採用という仕事を「総合格闘技」と表現する。
「こんなに人の人生や生き方に真正面から向き合える仕事は、他にない。採用は生身の人間同士がぶつかり合う、総合格闘技のような世界。ロジカルだけでもダメ、感情だけでもダメ。論理的でありつつ感情を読み取って、それを引っ張ることも必要だ。そして最後には、こちらの人間力や情熱も問われる。スキルだけでも感情だけでも、論理だけでも通用しない。自分も日々試されていると感じながら、仕事と向き合っている」
素質のあるメンバーを得られるのであれば、雇用形態にもこだわっていないという。「正社員である必要はなく、業務委託からでも関わってもらいたい」と、坂本は語る。
「その人のやりやすい形で、シェルパパートナーズに関わってもらえるのがベストだと考えている。この会社のミッションである“社会の『不』や『非』を無くす”ことに共感してくれる人であれば、ぜひ一緒に働きたい。そんな人がいつ現れるかわからないから、募集は常にしていたいと思っている」
シェルパパートナーズのミッションにある社会の「不」や「非」とは、“不”公平や“不”平等、理“不”尽、“非”効率、情報の“非”対称性などを指す。これらを解消できるの事業あれば、人材業界以外にも手を広げていきたいと、坂本は話す。
「正直に言うと、採用だけをやっていたいわけではない。個人的には好きな仕事だが、自分は飽き性でもあるので、いつか飽きると思う。任せられる人がいたらどんどん任せていって、次へ次へと事業を広げたい。いま最も興味を持っているのは、障がい者雇用・支援の領域だ」
障がい者は、なりたくてなるものではない。避けられない“不”幸があって、なってしまうものだ。
「運で障がい者になってしまうことがある。それはあまりにも悲しい。そして、いまの社会は障がい者にとって、とても生きづらいんじゃないかと思う。障がい者にもいろいろな方がいるから一言ではまとめられないが、それでも少しでも良くしたいと思っている」
最初は障がい者の就労支援から入り、その先に企業に向けた障がい者雇用のコンサルティング、セミナー、研修、さらには障がい者を支援するような器具などの開発へと展開していきたいという。
シェルパパートナーズという社名の「シェルパ」とは、登山における伴走者を意味する。現在は人材を探す企業や求職者に伴走をしている同社だが、その相手をさらに広げていきたいということだ。
「点字ブロックがなくて視覚障がい者が歩けない場所があるとか、社会側にある問題、欠陥、欠如を解決したい。モノづくりも含めて、いつか世界展開できるようなことをやりたいと思っている」
そのためにもまずは、いまの事業の土台をしっかり固める。やるべきことをやり、PDCAを回し、愚直に前進する。将来の夢のために、草創期の会社ゆえの泥臭さを共に楽しんでくれる仲間を、彼は求めている。
自分にしか作れない、唯一無二の会社
採用は、スケールの大きな仕事だと坂本は言う。
「人材の採用や配置は、それ一つで大きくビジネスを動かせる。一人の採用によって新しい商品ができ、新しい工場ができる。もしかしたら、社会を変える新たな製品・サービスを生み出すことにつながるかもしれない。自分の身の回りを変える可能性をも秘めている」
そんな大きな仕事から、人の想いや情熱を切り離してはならない。効率化や自動化が進む時代だからこそ、スカウトはラブレターでなければならない。企業は想いを持って人を口説き、求職者は自分の武器を持ってキャリアを切り拓く。そんな、”人間らしい”採用を実現する。それが坂本の、そしてシェルパパートナーズの信念だ。
小学生の頃から夢見た経営者という生き方。震災で感じた「力をつけたい」という想い。12年間の経験で培った専門性。人材業界への問題意識。それらの経験すべてが結実したのが、シェルパパートナーズである。坂本にしか作れない、唯一無二の会社だ。
筆者も彼の旧友の一人として、坂本の挑戦に心から共感するし、応援していきたい。この文章を書けたことを、非常に誇らしく、光栄に思っている。
